本年度受賞企業

2017年度日本経営品質賞非営利組織部門受賞

福岡県柳川市下宮永町 医療機関

医療法人清和会  長田病院

http://www.seiwakai.info/

代表者:病院長 木下 正治 氏

  • 地域から高い信頼を得た病院理念
  • 患者インサイトと患者に寄り添う医療サービスの提供
  • 終末期ケアへの組織的対応と他者への貢献
  • 高品質の医療・ケアを実現する職員
  • 地域の声を反映した病棟再編で高い患者満足を獲得
  • 職員の自主性確立とワーク・ライフ・バランスへの配慮
表彰理由

以下のような取り組みは、200床未満でケアミックス型の医療機関の新たなあり方を啓示するビジネスモデルとなりうる。地域社会からの高い評価、患者とその家族、職員の高い満足度の実現、これらを継続的に高め続ける組織力を創出し、売上・利益も堅調に推移している。同時に、医療業界を超え他の業界においても優れたビジネスモデルとして参考になる成熟度レベルにある。

地域から高い信頼を得た病院理念

1985年に内科専門病院として柳川市に開設された医療法人清和会・長田病院は、2003年に法人内の2病院を統合して5病棟・182病床のケアミックス型(急性期・慢性期・療養型回復期など異なるケアを必要とする病棟を持つ)の内科医療機関として現在地に新築移転した。その際、当時、非常勤内科医をしていた木下正治・久留米大学医学部講師に対して、職員たちから院長就任の嘆願活動が起こり、現院長が請われる形で大学講師を退職して院長に就任した経緯がある。以来、院長は15年にわたり、患者中心の医療サービスの向上、患者満足度の向上、職員のモチベーション向上など病院経営に取り組んできた。この間、病院理念として「私たちは地域と連携した専門医療を提供し、患者さんとご家族の安らぎを確保します」、事業ビジョンとして有明医療圏にあって「日本唯一の内科病院」「地域応援病院」を掲げ、病院全体が一体感を持って、理念とビジョンの実現に取り組み、地域社会から高い信頼を獲得する病院へと進化してきた。

患者インサイトと患者に寄り添う医療サービスの提供

同院は、患者に寄り添い患者中心の医療サービスを提供する「アドボカシー医療」を標榜し、患者の擁護者や代弁者となって、高品質の医療と真心によって、患者と共に満足と納得のいく医療に取り組んでいる(1996年の看護科学学会のシンポジウムで「アドボカシー」を患者の権利擁護と定義している)。例えば、専門医療やチーム医療による高品質で安全な医療だけではなく、急性期・慢性期・終末期の医療サービスが切れ目なく提供できる体制や各病棟連携のベッド・マネジメントを安定的な財務業績を確保しながら行っている。同院は、救急隊との月例症例検討会を通して内科に係る救急患者を24時間確実に受け入れられる協力関係を確立し、救急患者ベッドを常に確保して急患に備えている。さらに、患者や家族の潜在的なニーズまで把握・分析し、入院時点で、適切な入院病棟の選択、入院後の病棟移動、退院後の在宅看護までを見通して、患者一人一人について最適なベッド・マネジメントをしており、患者の高い満足につながっている。これは患者インサイト(患者が認識していない問題までを理解する)が働いている状態にあるといえる。

終末期ケアへの組織的対応と他者への貢献

また、地域の高齢化を見すえた「終末期ケア」に対応できる人材の育成に早い時期から取り組み、「終末期ケア」の知識とスキルを学ぶELNEC-J研修(EOLケアや緩和ケアを担当する看護師必須の米国発祥の能力育成プログラム)をいち早く取り入れ、九州で初めてセミナーを開催し継続し、地域の医療機関にも開放している。当院では看護師以外の職員へも参加を促しており、今までに看護師84名、他職種39名を育成している(2017年11月現在、在職看護師の48%が受講済み)。緩和ケアのスキルを緩和ケア病棟以外の看護師や、看護師以外の職員も身に付けており、組織のコンピテンシーとなって、患者視点に立った独自のベッド・マネジメントや患者対応のプロセスの強化に結びつけている。

高品質の医療・ケアを実現する職員

これらの基盤は、地域社会全体を病院と見て、患者や地域住民の安全安心の実現に取り組むスキルや能力を身に付けた職員の存在である。同院では、先輩後輩のペアで、院内の委員会やプロジェクトに参加し、OJTの機会としている。その成果として、例えば、入院当日の病室移動ゼロ、高齢患者の嚥下機能改善によるQOLの向上、入院依頼へのスムーズな対応、呼吸器に関するアクシデント・ゼロを達成するなど、医療・ケアの質の向上を実現している。また、外部研修へは異なる部門のペアで派遣し、受講後は導入方法までを検討して研修報告させている。

地域の声を反映した病棟再編で高い患者満足を獲得

地域の声を様々な仕組みで収集し、それらを委員会で分析して、地域の要求に応える医療サービスの開発に結びつけた結果として、2014年から3回にわたり病棟の再編を行い、急性期から緩和ケア、地域包括ケア病棟までを整え、行政の政策に先駆けてシームレスな医療サービスの提供に取り組み、外来・入院患者の高い満足を実現している。新開発のサービスは、地域社会に提供するという独自の考えもあり、院内の活動で得られた知見を「寺子屋健康塾」や市民公開講座等の様々な活動を通して地域に提供したり、職員がファシリテーターとして地域に飛び出し、主催を病院の職員から地域住民にバトンタッチすることで、地域住民が主体となった柳川市独自の地域包括ケアシステムの構築に貢献したりしている。例えば、地域包括ケアシステムの地域住民への啓発を目的として、2014年7月から地域懇談会を開催したが、地域住民主体での開催へとバトンタッチし、さらに、懇談会でリーダーとなった志が高く地域に人脈を持った方々を対象に「清和会サポーター制度」を創設している。

職員の自主性確立とワーク・ライフ・バランスへの配慮

職員に考えさせるリーダーシップ・スタイルの下で、病院の経営革新は、現場職員の自主的・主体的な業務推進に加え、①日常業務の中で問題を認識したら「ワイガヤ」でアイデアを出し合い問題解決する仕組みが定着し、②組織全体の課題は職員の70%が参加する各委員会やプロジェクト活動、専門医療チームを通して、改善改革活動を展開している。③職員がそのとき重要と考えるテーマを全職員で話し合う場「ワールドカフェ」が定期的に開催され、職制や機能別のプロジェクト・委員会ですくい上げられない情報やナレッジをすくい上げている。 当院ではまた、職員とその家族も顧客と定義して、ワーク・ライフ・バランスに配慮した勤務制度の多様化、「トータル人事制度」(複線型人事制度、管理職任期制・管理職定年制および再任制、奨学金制度など)」を導入し、院内保育(時間延長や臨時保育を含む)の整備などを進め、職員の育成と登用を図り、職員の進む方向軸を定めて組織変革に取り組んでいる。

沿革・事業内容
業種 医療機関
設立 1985年
代表者 木下 正治
所在地 福岡県柳川市下宮永町 523-1 医療法人清和会 長田病院
売上高 医業収入 3,647百万円(2016年度)
従業員 302名

医療法人清和会長田病院は、内科、呼吸器内科、消化器内科、循環器内科、糖尿病内科、リハビリテーション科、緩和ケア内科を標榜する182床のケアミックス型一般病院です。「創意と真心で日本唯一の内科病院になる」を事業ビジョンに掲げ、地域に密着した健やかな生活を支える医療サービス価値を創造する「地域応援病院」を理想的な姿としています。
私たちが実現を目指す「地域応援病院」とは、より良い住みやすい町になるよう、そして「しあわせにふる里に生きる」ことができる社会が実現するように貢献することです。アドボカシー医療を基盤に、プロフェッショナルとして、住民の健康を守るための疾病予防(一次予防、二次予防)、社会復帰、在宅・生活復帰、救急医療、最新標準治療、地域包括ケアの推進、認知症ケア、エンドオブライフ・ケア、啓発・文化活動を展開しています。
当院が位置する有明医療圏は、福岡県の中でも人口減少、少子高齢化が進んでいる地域です。内科の基幹病院として、専門医療や在宅医療、急性期から回復期、慢性期、終末期の病棟編成を活かし、地域社会と価値共創することにより顧客本位の視点や独自能力を高め、経営革新に取り組んでいます。

経営品質向上活動への取り組み

当院は、2003年にトータル人事制度、2004年に経営マネジメントツールとしてBSCを導入し、組織改革に取り組み始めました。さらに
2007年からは日本版MB賞プログラムである「経営品質向上プログラム」を導入しました。院長、部長によるプロジェクトチームを結成し、2009年に第1回クオリティクラスAクラス認証、2011年にクオリティクラスSクラス認証を受けました。フィードバックレポートで、「人材育成やチーム医療の推進」は当院の強みである一方、「地域の中での位置付けと役割を考え、地域の資源を活用して物事を考えること」が課題であると気づかされました。2012年以降、経営方針において「地域応援病院」を理想の姿と位置づけ、地域社会のニーズや変化に対するアセスメント能力を高め、地域の実情や特性にあった新たな仕組み(地域サポーター制度、地域懇談会、地域サロン等)を構築出来ました。
また、2014年の「経営革新推進賞」の受賞を機会にプロジェクトチームから、次世代を担う中堅職員を中心とした「経営革新チーム」へと発展しました。多職種によるセルフアセスメントや組織プロフィール、各カテゴリー記述を通じた次世代の育成とともに、時代や環境の変化を先取りした多面的な経営革新を活動の主眼としています。