本年度受賞企業

2018年度日本経営品質賞中小企業部門受賞

鹿児島県霧島市 一般機械器具製造業(給水システム関連商品の開発・製造)

株式会社九州タブチ

https://www.tabuchi.co.jp/

代表者:代表取締役社長 鶴ヶ野 未央 氏

  • 給水装置のパイオニアTBCグループを支えるものづくり機能会社
  • 危機を契機にTPSと経営品質向上活動に取り組み、さらに独自活動へと昇華
  • TPI活動でのビジネスパートナーとの相互連携と、次世代リーダーの育成
  • 工場見学者や水道工事現場へのインサイトによる新たなニーズの発見
  • 人と組織の飛躍的な成長を図るための基盤づくり
表彰理由

同社の表彰理由は以下の通り

給水装置のパイオニアTBCグループを支えるものづくり機能会社

 株式会社九州タブチ(以下、九州タブチ)は、サドル分水栓・水道用継手などの給水装置のパイオニアである株式会社タブチ(大阪市)の子会社で、1970年に設立された。TBC(タブチ)グループの生産の大半を担い、鹿児島県霧島市に本拠を構え、鋳物部品製作を行う上野原テクノパーク工場と、製作された鋳物部品の加工・組立を行う霧島工場の2工場体制で運営しており、止水栓やサドル分水栓、メーターユニット、逆流防止弁、各種水道用継手、水栓コンセント(洗濯機用給水栓他)など、多種多様な製品のものづくりを行っている製造機能会社。

危機を契機にTPSと経営品質向上活動に取り組み、さらに独自活動へと昇華

 九州タブチの経営革新の大きな転機となったのは、1997 年に行われた消費税率変更で、急激に市場環境が変化したことに対応できず、苦肉の策として人員整理にも踏み切った。その時にトヨタ生産方式(TPS)の基本、考え方を学び、作業改善をスタートするのと同じタイミングで経営品質向上活動にも出会い、「人の成長なくして企業の成長なし」という『ありたい姿』と、「お客様への価値創造№1」「ものづくりで業界トップクラス」「キラリと光る地域貢献№1」の3 つのゴールを目指す『なりたい姿』を定め、これらをもとに戦略課題を設定し、経営革新を推進してきた。初期の段階ではTPS導入によって個々の作業の改善は進んだものの、TPS をそのまま導入しても業界特有の問題は解決せず、経営全体で効果を発揮するために、九州タブチでは、「自働化」と「ジャスト・イン・タイム(JIT)」に代表されるTPS の「魂部分」を残してほかは捨て去り、社員一人ひとりの「創意工夫提案活動」とチームでの「自主研活動」による改善(TPI:Tabuchi Productive Improvement 活動)によって、工程設計→生産準備活動→鋳造→機械加工→検査→組立の価値創造プロセスを磨きあげて、九州タブチ独自の一気通貫生産方式を構築し、品質クレーム・不適合件数を継続的に半減させながら、2015 年からは受注組立品の当日出荷を実施するなどの納期改善や、コストダウン・生産性改善に成果を生みつつある。

TPI活動でのビジネスパートナーとの相互連携と、次世代リーダーの育成

 TPI 活動は、ビジネスパートナーである中子の成型業者ST システムや組立準備の委託先である障碍者の授産施設タブチメイト(TM)にも対象を広げた展開が図られ、ビジネスパートナーとの相互連携を常態化させて生産現場での「プロセスイノベーション」の起点となっている。ビジネスパートナーでの活動成果として、ST システムでは、JIT(2 時間納品)の納期遵守率99%以上が約14 年間続き、TM に対しては、授産施設の作業のやりにくさを現地で調査・確認を繰り返すことで、施設の作業者から感謝の声を数多くいただくことになり、ビジネスパートナーが九州タブチにとっても一気通貫生産方式での通常戦力化を果たしている。また、自主研活動でのリーダー経験者たちは、毎年年初に開催される「クレマチス価値共有会」に参加して、自主研活動を進める中で得られた知見をもとに、現場での課題を自らの問題として提言し、課題解決を図るための革新計画を自分たちで検討するなど、現場発の戦略形成が行われている。こうしたプロセスを通じて、鶴ヶ野社長を始めとした現経営幹部の後継人財となる次世代リーダーが育ちつつある。

工場見学者や水道工事現場へのインサイトによる新たなニーズの発見

 九州タブチにとってタブチは親会社であり、最も重要な「第一のお客様」に位置づけられる。そうしたことから、タブチ営業部門を対象とした顧客満足度アンケートを毎年実施して、TBCグループのマーケティング活動の阻害要因を探究して戦略的に生産活動の改善を進めるとともに、タブチの営業部門と連携して、水道事業体や水道管材店・水道工事店などの顧客を工場見学に招待して、「工場のショールーム化」というホールプロダクトの概念を共有して、その価値を高める協働を進めている。また、地元霧島市の水道部に「給水装置工事主任技術者」を2 年間2 名を派遣して、第二・第三のお客様の工事現場にも理解を深めている。こうした見学者のニーズを洞察する活動等によるプロダクトイノベーション活動の中で、ロストワックス工法によるステンレス鋳造製品の試作に取り組み、国内同業他社が4 か月かかるところを1 か月で納入して、量産品の受注につなげている。

人と組織の飛躍的な成長を図るための基盤づくり

 「人の成長なくして企業の成長なし」という『ありたい姿』と「お客様への価値創造№1」「ものづくりで業界トップクラス」「キラリと光る地域貢献№1」の3 つのゴールを目指す『なりたい姿』を両輪に、九州タブチではTPI 活動、中でも自主研活動を全ての中核において、人財育成と経営革新をスパイラルアップしてきた。こうした取り組みの中から、前述したように、自主自立した社員が育ち、また、その中から次世代を担うリーダーが表出しつつある。また、クレマチス価値共有会では、そうした次世代を担うリーダーが、例えば「女性が活躍する鋳物工場」というような世の中に存在しない新しい工場コンセプトを具現化しようと、現場発の経営戦略が形成されつつある。
 一方、2015 年に不幸にして発生した労災事故に対しても、尊い命・つらい経験から学び、リスクアセスメント手法(OHSAS18001)の適用範囲を機械故障などの非定常業務にまで広げ、全社的な労災事故の未然防止を図ってきた。また、障碍者が活躍する場づくりを行うとともに、就労人口の減少という地元鹿児島県が抱える喫緊の課題に対しても、鹿児島県高専テクノクラブ、鹿児島県経営品質協議会などの会員企業や地域の7 福祉施設など組織外とも共有して「一人ひとりができることを支援する」という考え方で、様々な社会貢献活動にも取り組んでいる。

沿革・事業内容
業種 一般機械器具製造業(給水システム関連商品の開発・製造)
設立 1970年
代表者 鶴ヶ野 未央
所在地 鹿児島県霧島市
売上高 41億円
従業員 162名(男122名・女40名)

 株式会社九州タブチは、株式会社タブチの製造子会社として1970年(昭和45年)に「タブチフォーセット」として設立されました。高度経済成長に伴い、急増する住宅着工に対応するため、給水栓を主な製造品目として操業を開始しました。株式会社タブチは高度経済成長期に配水管を断水せずに給水工事を可能とする「不断水工法」を開発した会社です。この不断水工法に使用される「サドル分水栓」の開発以降、水道普及率は飛躍的に上昇していきます。市場が拡大していく中、様々な製品を業界に先駆けて開発し、業界で「開発のタブチ」としてリーディングカンパニーの確固たる地位を構築しました。当社はその「タブチ」の製造工場として鋳造から組立まで一貫して生産する体制を構築し、本社を通じて市場に製品を供給しています。現在は単に製品を製造するだけではなく、工程に必要な型や治工具、設備を内製化するとともに、ビジネスパートナーと一体となって生産活動を推進しています。

経営品質向上活動への取り組み

 住宅着工件数が常に右肩上がりで拡大していく市場において、当社のものづくりの考え方はロットでものを流す大量生産方式、典型的なプロダクトアウトでした。大きな転機となったのは1997年の消費税率変更です。駆け込み需要の後、住宅着工件数は急激に低下し、その市場の変化に対応できずに赤字決算となり、リストラも余儀なくされました。そのような環境の中、作業改善の手法として「必要なものを作り、運ぶ」トヨタ生産方式を導入することと同時に経営の在り方を考える必要を感じ、経営品質向上活動をスタートしました。「お客様とは誰か」「お客様は何を求めているのか」を追求し、これまで自社や本社のみに向いていた視点から、タブチグループとして「当社の役割は何か」「ありたい姿・なりたい姿は何か」を経営幹部で活発に議論するようになり、事実前提の経営から価値前提の経営へ転換してきました。
 経営品質向上活動を推進していく中で、鹿児島県経営品質賞に応募し、2008年度に優秀賞、2011年度には知事賞(大賞)を受賞しました。世の中が大きく変化し、社会構造の変化や従来の需要と供給のバランスが崩れていく状況の中、会社が長く生きていくためにはお客様にとって、無くてはならない製品やサービスを将来にわたって提供していく事が必須になります。そのためには、社員一人ひとりが周りの変化を感じながら、自ら考え、自ら行動する「自主自立」の精神を基本に、それぞれが持つ能力を存分に発揮し、自己革新を通じて新たな価値を創造し続けることを目指して、経営品質の考え方を経営における中心に置きながら活動を推進しています。