本年度受賞企業

2023年度日本経営品質賞 本賞中小企業部門受賞

徳島県徳島市 金属製品製造業

西精工株式会社

https://www.nishi-seiko.co.jp/

代表者:代表取締役社長 西 泰宏 氏

  • 【ファインパーツ創造への価値転換と日本経営品質賞を受賞してからの10年】
  • 【ビジネスパートナーとの協働によるファインパーツ創造】
  • 【全19チームによるチームビジョンの策定と実践】
表彰理由

同社の表彰理由は以下の通り。

【ファインパーツ創造への価値転換と日本経営品質賞を受賞してからの10年】

 創業100周年の節目の年に2013年度以来2回目となる日本経営品質賞(本賞)を受賞した同社は、2009年の経営ビジョン策定以降、それまでの「大量生産」から「ファインパーツ創造によるお役立ち」*へと顧客価値を転換し、高付加価値経営へのシフトをめざしてきた。
*「ファインパーツ(FP)」:同社が定義する「高品質・高精度・極小」で「買い手も売り手も粗利の高い」製品
 同社は、「ありたい姿」として「10年後のFP割合70%以上(売上構成比)」というシンプルで効果的なゴール「FP70」を設定し、「The way to FP70」でゴールへの道筋を示している。大きな波及効果が期待できるグローバルな自動車業界をターゲット市場として、同社の直接の顧客である商社の中から、戦略製品(3種類)の「売上額」、「利益率」、「新製品成約件数」等の観点で重点顧客を絞り込むことで、効果的な営業活動を展開している。そして、自社の独自技術を磨き続けるとともに、複数のビジネスパートナー(BP)との協働によって相互の強みを掛けあわせたFPの創造に重点的に取り組んでいる。
 これらの取り組みによって、FP比率は前回受賞時の20%台から、10年の歳月を経て約50%へ上昇し、平均販売単価も37%向上するなど、高付加価値経営へのシフトに成功している。その成果は財務面にも表れており、償却前経常利益率は3年平均で17.6%(業界平均10.5%)に達しており、創出した利益を源泉として積極的な設備投資を可能にしている。
 2019年にスタートした「ファインパーツ・ファクトリー・プロジェクト(FFPJ)」は、老朽化した工場の建て替えや閉鎖、新工場の建設を伴う大規模プロジェクトであり、「安全・安心して働ける職場づくり」「FP創造のための次世代生産ライン構築」を目的としている。現在は、阿波市にある土成第1工場の第Ⅳ期工場棟や土成第2工場が竣工し、各拠点に分散していた製造の上流工程(材料加工、成型)や二次加工工程(捻立)の集約によって整流化を実現。2027年には検査・出荷工程がある本社工場を自動倉庫機能やICT技術を駆使したスマートファクトリーへ建て替えることを予定している。

【ビジネスパートナーとの協働によるファインパーツ創造】

 同社の経営ビジョンには「徳島から世界へファインパーツの極みを発信する」ことが掲げられている。創業の地である徳島でのものづくりにこだわり、地理的ハンディキャップを克服するため、材料加工(伸線)や金型製作、設備開発・保全の内製化に長年取り組み、高い品質が求められる自動車市場で独自技術を磨き続けてきたことで、日本を代表する冷間鍛造によるパーツ・ナットメーカーへと成長を遂げた。材料加工から成型→捻立→旋削→梱包にいたる垂直統合型の一貫生産体制による高品質なものづくりと、アメーバ経営や改善活動を通じた原価低減は、同社の競争優位・利益の源泉となっている。
 「ファインパーツ創造によるお役立ち」重視は、顧客からの要望に極力応えることを暗黙裡に含んでいる。そして、主要ユーザーである自動車業界のEVシフトを背景に、ビジネスパートナー(BP)との協働関係も新たな局面を迎えている。顧客からの「軽量化」「高機能」「高品質」「短納期」の要請が一段と高まり、自社だけでは実現が困難な製品ニーズが増える中で、BPとの協働によってお互いの強みを掛けあわせた「複合多工程品」によるFP創造に挑戦している。
 BPとの協働による代表的な成果として、EV向けの複合多工程品の開発が挙げられる。複雑な形状のため、全て切削加工によって成型する場合、試作段階で2,000円/個以上のコストがかかっていた。そこで同社は、自社とBPの強みを照らしあわせて、パーツを後から一体化する工法を考案する。試行錯誤を重ねながらも、同社とBP10社の技術力を掛けあわせることによって生まれた複合多工程品は、11社が①材料加工→②本体鍛造(成型)→③ねじ加工→④ヘッド鍛造→⑤ヘッドトリミング(2社)→⑥ヘッドバレル研磨→⑦ヘッド検査→⑧ヘッド銅鍍金→⑨本体とヘッドブレージング→⑩錫鍍金→⑪最終検査の計11工程を分担している。
11工程のうち、同社は①材料加工と②本体鍛造のみを担当し、BPとの協働によって各社の独自技術を結集したことで開発に成功し、最終的に試作段階からの大幅なコストダウン(100円/個)での製品化を実現。長年のおつきあいを通じてBP各社の独自技術を熟知する同社だからこそ、その知見を活かしたコーディネート機能を担うことができたといえる。
 現在もBPとの協働による複合多工程品の開発実績は順調に伸びており、他社では開発が困難な製品も、顧客の要望に応えるコスト・納期で開発できるようになっている。

【全19チームによるチームビジョンの策定と実践】

 同社が経営理念に掲げる「人づくり」重視の姿勢は、子育てをはじめとする家庭と仕事の両立を実現するための各種支援制度の整備や働きがいのある職場環境づくりにも表れている。2017年には中国・四国の製造業で初となる「プラチナくるみん」認定も取得している。
同社では、「創業の精神」「経営理念」を共通の判断軸として社内に浸透させるとともに、社員の相互理解を深める上でも「対話」を重視している。毎日の朝礼をはじめとする様々な場における本音の対話や、全社員が人生の目標を記した「ミッションステートメント」の共有などを通じて社員の相互理解が進み、仕事におけるフォローや連携がしやすい関係性が築かれている。それは、ファインパーツ創造に全社一丸で取り組む上で不可欠なチーム力の基盤となっている。そして、チーム活動を通じてチーム・メンバーの研鑽・成長が促され、それがさらなるチーム力向上につながる好循環によって、他社の追随を許さない水準まで組織能力を高めてきた。
 特筆すべき点として、管理間接部門も含む各工程・部署全19チーム(係)が全社ビジョン実現に向けたチームビジョンを2019年に策定し、チームビジョンの実践を通じた各工程の磨き上げを行っていることが挙げられる。「ハグルマ印」の百年企業ブランドとして顧客から高く評価されている同社だが、各チームが今年
100周年を迎えた同社の歴史を振り返り、自分たちの強みを洗い出してチームビジョンを定め、実現に向けた成功のシナリオを作成した。チーム・メンバー全員の納得・腹落ちを重視するため、完成までに1年以上をかけて、チームによっては200回を超える対話を重ねてきた。通常だと全社単位で取り組むこうした活動を、全てのチームで取り組んだことは称賛に値する。
 このチームビジョンをもとに、各チームが毎期の経営方針を踏まえてチーム目標を設定し、それを個人目標へと落とし込むことで、全社ビジョンからチームビジョン、個人目標へ整合性と一貫性をもって結びつけている。そして、チームビジョンの実践状況や成果を、経営トップ主導で半期ごとに開催する「係別面接」で報告し、評価を行っている。係別面接には、当該チームのメンバーだけではなく、他チームのメンバーも毎回10~20名ほどがオブザーバーとして参加しており、チーム間の相互理解を深める機会にもなっている。

沿革・事業内容
業種 金属製品製造業
設立 1960年(創業1923年)
代表者 西 泰宏
所在地 徳島県徳島市
売上高 売上高4,411百万円(2022年度)
従業員 241名

 西精工株式会社は、1923年創業者の西卯次八が「西製作所」を創業、切削加工でボルトを製造し大阪の流通問屋に販売したことに始まります。終戦を境に、欧米輸出用ナット製造に転換、1960年、「西精工株式会社」へ改組を機に、ベアリング事業へも参入。国内の弱電・家電業界の発展に高品質な小径の四角、六角ナットで貢献してきました。2006年には経営理念、2009年には経営ビジョンを策定し、2010年には創業の精神を明文化してファインパーツによる顧客価値創造へとシフト。2010年には徳島県経営品質賞を、2013年には日本経営品質賞・中小規模部門を受賞。その後も経営品質向上活動に取り組み続けています。直近では、社員の安全と製造工程・物流の整流化に考慮した新工場を2棟建設し更なる顧客価値創造が出来るメーカーへと邁進しています。

経営品質向上活動への取り組み

 当社は10年後のありたい姿を『ファインパーツ(FP)売上比率を70%にする』ことに定め、それを「FP70」とわかりやすく表すことで、全社的な浸透、達成への動機づけを行っています。全19チームそれぞれがありたい姿実現に向けたチームビジョンを策定し、その達成に向けた主体的な活動を通じてありたい姿の実現を目指しています。また、ビジョン策定では創業から100年の歴史を振り返り、チームの強みを洗い出し、成功のシナリオを作成しています。その作成過程においても社員一人ひとりが納得、腹落ちするまで1年以上に渡って対話を繰り返し、全員が参画する活動に進化させてきました。一方、顧客にとっても社員にとっても安全・安心な工場にするためのFFPJ(ファインパーツ・ファクトリー・プロジェクト)や世界基準の品質管理システムであるIATF16949認証取得を目指した活動もしており、これらを組織横断的課題として経営方針に盛り込み取り組んでいます。さらにFP創造の新しい形として当社がコーディネート役となり、ビジネスパートナーと連携し、技術力を掛け合わせた価値ある製品を創出することで、顧客の課題解決の面でも貢献しています。これら「ビジョンの追求」によって「大量生産・安定供給重視」から「高精度・高品質のファインパーツによるお役立ち」へ顧客提供価値を転換し、高付加価値経営を実現しています。現在、FP率を10年前に比べて大きく伸ばし、平均販売単価37%アップを実現しています。