本年度受賞企業

2019年度日本経営品質賞大企業部門受賞

熊本県熊本市 銀行

株式会社 肥後銀行

https://www.higobank.co.jp/

代表者:代表取締役頭取 笠原 慶久 氏

  • 高い価値創造を実現する体系的組織変革と人づくり
  • 経営品質フレームを内部振り返りと本業に活用
  • 金融サービス・非金融サービスを通じた社会貢献活動
  • 組織全体の一体化による風土変革
表彰理由

肥後銀行は、一貫して健全経営を実践しており、大正14年の創立時以来、赤字を計上したことがない。
現在の甲斐会長が頭取に就任した2009年から、肥後銀行の経営革新への取り組みが本格化した。
同行の表彰理由は以下の通り。

高い価値創造を実現する体系的組織変革と人づくり

 「集権から分権へ」を実現するために、ブロック統括店支店長に人事権(主任以上は本店に人事権)をもたせたブロック単位運営に移行するとともに、経営幹部(支店長、グループ長等)の意思決定に必要なスキルとして、システム構築能力(IT)、コミュニケーション能力(CT)、管理会計と分析・説明能力(AT)の3種類をICATと呼び、体系化して重点的に育成した。その後、対象範囲を全行員に拡大し、10年間かけて行員のスキルおよびITによる支援のレベルを磨き上げてきた。特にITは、窓口業務の一部をタブレット入力・QRコード化するシステムを共同開発したものが市販されたり、不動産担保評価業務システム・地番調べシステム・預かり管理システムのローンチ・カスタマーとなったりしている。こうした組織風土の中で、2016年4月に熊本地震が発生し、地元が甚大な被害に直面する中で、行員たちが覚醒することになる。
 震災直後にCT・ATが発揮される。(a)営業店行員に加え、本部および鹿児島銀行(同じ九州フィナンシャルグループ) の行員総勢863名で、県内法人全16,403先、住宅ローン全43,548先の被災状況を確認、要望を集約し、(b)お客様第一主義管理委員会、震災復興委員会が現場情報を吸い上げる仕組みを作り、(c)ブロック統括店支店長の判断で、ブロックの渉外担当者を被災地に集中投下する機動的人員配置を行い、(d)計画策定や進捗管理等のノウハウを顧客に提供し、グループ補助金(中小企業がグループを作って復旧・復興の事業費を申請すれば、国と県が事業費の3/4を補助する制度)申請の際のグルーピング支援や事業計画策定支援を行った。
 さらに、ITを発揮して、MS4(顧客管理システム・融資トータルシステム・口座分析システム・管理会計システムの総称)を活用して県全体の復興状況を合算B/S、P/L等で把握し、復興支援のファンド総額を想定し、くまもと復興応援ファンド、くまもと未来創生ファンドなどを組成するとともに、くまもと復興応援私募債(文化財寄付オプション付私募債)、学び舎応援私募債(発行企業が指定した学校への教育機器等寄贈付私募債)、創造的復興おうえん資金(元金据置期間の新設、融資期間の延長)、熊本城応援プラン(寄付付個人向け国債)、資産形成と震災復興支援の二刀流プラン(契約件数に応じて一定金額を寄付)などの熊本地震関連の金融商品を開発・提供してきた。
 こうした震災対応が象徴しているように、肥後銀行は、ICATを活用した事務効率化によって、事務人員を渉外人員にシフトし、「事務から事業へ」軸足を移しつつある。たとえば、他行が店舗閉鎖による効率化を急ぐ中で、フェイス・トゥ・フェイスのサービスを重視し、あえて123店舗(17ブロック)の閉鎖は行わないという方針を立て、過疎地では昼休み制度導入による短時間営業、被災地域等では移動店舗2台(2017年から)を活用している。

経営品質フレームを内部振り返りと本業に活用

 2017年より経営品質向上の視点から組織を振り返る視点をもつ人材育成を開始、2018年8月に41人、2019年7月に33人の計76人が「セルフアセッサー」資格を取得した(正社員は2,000人程度)。これは、銀行経営の品質向上に資することに加え、顧客の過去の財務計数に頼るだけではなく、将来の事業性評価を着実に行っていこうという姿勢の表れでもある。こうして、法人顧客に対しては、将来の事業性評価を含めた審査的営業活動により、無担保・無保証の融資を提供したり、事業承継やM&Aなどの非金融面での課題解決支援を行ったりすることで、非金利収入は着実に増加している。また個人顧客に対しては、2019年2月に信託業務兼営認可を取得し、熊本を離れている子息がいる場合等には、遺言信託等を活用して課題解決に結び付けている。

金融サービス・非金融サービスを通じた社会貢献活動

 肥後銀行の寄付+協賛の金額は、2018年度は7億4,700万円と経常利益(181億円)の4.1%にもなっている。2019年度からは、グループでESG(Environment, Social, Governance)投融資の指針を制定し、地銀初のESG投融資目標5,000億円を設定・公表している。また地域社会の課題解決のために、金融の枠を超えて、目的地型観光振興会社「くまもとDMC」、熊本食材を使って熊本をPRする香港のレストラン「櫓杏」(ろあん)を立ち上げ、ホテルを運営する「瀬の本高原リゾート」へも出資している。

組織全体の一体化による風土変革

 こうしたことの背景には、お客様目線の行員の提案に対して本部の各部門がすぐに対応することや、本部の各部門が各営業店に臨店して支援することで営業店と本部の距離が縮まり、本部への信頼感が増していることがある。甲斐会長は、2017年の会長就任後は執行から外れ、自らをChief Educational Officerと名のり、「肥銀ビジネス教育」という子会社を作って社員教育に注力している。銀行の執行は笠原頭取に引き継がれ、経営品質向上への取組みは加速している。

沿革・事業内容
業種 銀行
設立 1925年
代表者 笠原 慶久
所在地 熊本県熊本市
売上高 経常利益:181億円(2019/3期)
従業員 2,191名

 企業理念に「お客様第一主義に徹し、最適の金融サービスを提供します」、「企業倫理を遵守し、豊かな地域社会の実現に積極的に貢献します」、「創造性に富み、自由闊達で人間尊重の企業文化を確立します」を掲げ、企業理念重視、現場重視の業務運営をグループ一丸となって実践しています。
 2015年10月には九州フィナンシャルグループを設立。地域ナンバーワンである健全な地方銀行同士が、共同で地方創生実現に向けて経営統合する全国初めてのモデルとなりました。
 現在、中期経営計画「新創業2020」に取り組んでいます。目指す姿を「経営品質の向上により、お客様第一主義を充実徹底し、創造的復興の実現に貢献する銀行」とし、お客様・地域の課題解決支援に向けたこれまでの取り組みが、県内預金貸出金のボリューム増加とシェアアップ、お客様満足度向上へと繋がっています。

経営品質向上活動への取り組み

 2008年の第四次中期経営計画から「現場力の品質強化」を基本コンセプトに掲げ、経営品質向上活動が本格化。中央集権、本部主導の業務運営から顧客重視、現場重視のマネジメントへの転換、経営の高度化・IT化、それらを担う人材教育の確立などに取り組んできました。
 その後一貫して経営品質の考え方を経営の中心に据え、セルフアセスメントによる経営改善を重ねることで着実に自己革新能力が向上。そして、現在の中期経営計画では、企業理念にこだわった経営品質向上を目的に、そのプロセスの目標として日本経営品質賞の受賞を掲げて取り組んできました。
 今回、受賞することができましたが、これからも従業員一人ひとりがそれぞれの立場において顧客・社会へ価値創造し提供することで、お客様や地域に高く評価される銀行グループを目指していきます。