本年度受賞企業

2025年度日本経営品質賞 大賞大企業部門受賞

千葉県浦安市 食品スーパーマーケット

株式会社ワイズマート

https://www.ysmart.co.jp/

代表者:代表取締役社長 吉野 秀行 氏

  • 【店主集団経営による独自の店舗運営】
  • 【協働力と自律性を高めたチーム経営への進化】
  • 【新顧客層の発掘と狭小店舗フォーマットの確立】
  • 【従業員の「物心両面の幸福」を目指す温かみある経営】
表彰理由

 東京ベイエリアの駅前・駅近を中心に、売場面積が業界平均の約1/3の小型スーパー(39店舗)を展開。理念「お客様の身近な冷蔵庫がわりでありたい」を追求し、小型店舗ながら店内加工の惣菜・生鮮品、産地直送品など、鮮度・品質の高い商品を提供。生活動線上の立地や夜間帯営業による利便性向上と価格に依存しない差別化を図ることで付加価値を高め、坪効率(㎡あたり月商)は業界平均の2.5倍以上の高い収益力を実現している。
 駅前・駅近への展開を進める中、独自の店舗運営に磨きをかけて生産性を高め、収益を社員へ積極的に還元することで「物心両面の幸福」を実現しており、小売・サービス業における価値創造と持続可能な経営のモデル組織といえる。

【店主集団経営による独自の店舗運営】

 同社は、顧客にとっての「身近な冷蔵庫代わり」として、鮮度・品質が高く、日常使いに十分な品揃えの商品を適正価格で提供している。売場面積が限られる小型店舗でこれを安定的に実現するには高度な運営力が求められるが、同社は独自の「店主集団経営」によって課題を克服してきた。  
 各店舗の部門ごとに配置された店主(部門責任者)は、仕入れ・値付け・見切り・売場づくりに加え、販売管理費やパート採用まで幅広い裁量を持ち、部門を“ミニ経営単位”として運営している。これにより、地域特性に応じた独自の品揃えや売場づくりが可能となり、「行けば必要なものが揃う」店舗を実現。さらに、スタッフ一人ひとりの経営者意識と創意工夫を引き出し、店舗全体の収益力向上にも大きく貢献している。
 これらの運営は、長年活用されてきた自社開発の「Data Studio」をはじめとする情報管理・分析システムによって支えられている。全店舗・全部門の月次決算は社内WEBで公開され、誰もが比較・確認できる。商品別売上や客数をはじめ、現在は1時間単位で需要変化を即時把握できるようになった。これにより、製造量や補充、人員配置の即時見直しが可能となり、品揃えや販売計画の精度がさらに向上。鮮度維持と廃棄抑制を両立し、日常使いに最適な店舗運営を実現している。

【協働力と自律性を高めたチーム経営への進化】

 この3年間で、同社は「チーム経営」へと大きく進化した。各店舗では毎日の「11時・15時ミーティング」で計画や進捗、課題、対応策を話し合うことでスタッフの仮説検証力を高め、店舗運営の質を向上させている。また、2019年に開始した作業改善活動を通じて作業効率や生産性の向上を図るとともに、2023年からは日常業務での小さな気づきを重視する「パート社員プチ改善活動」も開始。品出しや陳列方法を工夫するなど、一人ひとりが「小さな経営者」として自律的に行動している。2022年導入のビジネスチャットツールにより、こうした取り組みは全社に共有され、他店舗への横展開も進んでいる。
 パート社員を含む全社員の賞与明細には「フォア・ザ・チーム」の評価項目が設けられ、ハイブリッド型の狭小店舗では多能工化した店主が複数部門を担当するなど、協働体制が一段と強化されている。
 加えて2023年5月以降は、グロサリー社員が自由に参加できる「試食・商談・買い付け商談会」を開始し、2025年5月までに25回開催。取引先も約150社に拡大し、店舗スタッフは“あきんど”としての商才を磨いている。
こうした取り組みにより、商圏特性や顧客ニーズに応じた独自の店舗運営にさらに磨きがかかり、坪効率(㎡あたり月商)は業界平均の2.5倍以上、人時売上高は業界平均の1.6倍に達している。

【新顧客層の発掘と狭小店舗フォーマットの確立】

 同社では以前より、ポイントカードシステムやロイヤルカスタマーへのアンケート、店舗モニター制度を通じて顧客の声を収集し、売場づくりや改善活動に活用してきた。3年前の日本経営品質賞審査のフィードバックでは顧客情報の分析・活用について提言を受け、時間帯別の売上・客数データを詳細に分析した結果、「多頻度来店の都市生活者」という新たな顧客層が浮かび上がった。あわせて、①駅前立地へのシフト、②夜間帯の品揃えに対応可能な勤務シフト、③人手不足下でも夜間に商品供給できる体制、といった具体的な課題が明確となった。
 これらの課題へ対応するため、同社は既存店舗を改修したプロセスセンターを活用し、店内加工とプロセスセンターによる加工・配送を組み合わせたハイブリッド型の実証実験を加速。2025年には都心狭小店舗の平井店(99坪)、豊洲店(100坪)を開店し、ディベロッパーからの出店要請が相次ぐほど注目を集めている。さらに、2027年には生鮮総菜プロセスセンターの本格稼働を予定しており、これにより商品欠品による機会ロスのさらなる削減と、約30%少ない人員での店舗運営が可能となり、狭小店舗フォーマットの競争力強化が期待される。

【従業員の「物心両面の幸福」を目指す温かみある経営】

 従業員の「物心両面の幸福」の実現に向け、同社はワーク・ライフ・バランスを重視するとともに、納得感のある評価・処遇制度の整備や財形貯蓄の利子補給など、社員を大切にし、動機づける温かみある経営を進めている。社員の平均年収は業界の上場企業を上回る水準に達している。
 また、「見てあげることが最高の教育」という考えのもと、経営幹部が高頻度で店舗を巡回し、従業員へ積極的に声をかけることで、信頼関係の構築と風通しの良い組織風土の醸成を図っている。
 さらに、店舗間での社員のスキル・能力のばらつきをなくすため、店舗サポート部による指導巡回チームが、年2~3回「個人認定チェックリスト」をもとに作業状況を確認し、必須項目を含む80%をクリアした社員を認定する「個人認定制度」も開始した。これにより、店舗スタッフは自分が取り組むべき課題や行動の優先順位を明確に把握できるようになった。
 こうした取り組みの結果、離職率は3.5%(3年前4.7%)と業界平均(10.7%)を大きく下回る水準を達成している。特に店長や店主などのマネジメント層は、「他社ではここまでの裁量はありえない」と語るほど高いやりがいを感じており、社員の定着率の高さにもつながっている。

沿革・事業内容
業種 食品スーパーマーケット
設立 1969年
代表者 吉野 秀行
所在地 千葉県浦安市
売上高 50,062百万円
従業員 1,589名

 当社は東京ベイエリアに39店舗(2025.2末時点)を展開する食品スーパーです。「お客様の身近な冷蔵庫がわりでありたい」を理念に掲げ、利便性の高い駅前・駅ナカに26店がありますが、売場面積は業界平均の1/3しかありません。首都圏有数の激戦区にあり、圧倒的に不利な環境の中、50周年の節目を迎えられたのは、社員一人ひとりの創意工夫と努力に他なりません。
 ありたい姿の一つに「コンパクトストアに磨きをかけ、お客様をファンにしたい」があります。生鮮惣菜の強化に努め、その構成比は業界平均を上回る55.7%。坪効率のアップに寄与しています。
 経営者感覚を持った社員によるチーム経営が特徴で、店内6部門ごとにPLを算出。自社開発のアプリから、全社員が自店他店のチーム損益を閲覧可能です。各部門の責任者が「小さな経営者」として裁量を持って運営することから「店主集団経営」と称しております。

経営品質向上活動への取り組み

 今から24年前の2001年。日本IBMさんの勉強会で「日本経営品質賞」と出会いました。同年6月に社名を変更し、10月に上場も控えていましたが、財務体質は脆弱で、人員も不安定。9.11のNYテロを理由に上場を延期しました。ここから経営品質のフレームワークを意識した経営に舵を切りました。90億円の有利子負債を減らし、離職率を下げる。「大きな会社より、強い会社。かっこいい会社より、あったかい会社」を目指さなければ悪循環から抜け出せない、そう悟ったのです。
 売上を追うより、不採算店は閉じて社員の休みを確保する。どうしたら社員が主体的に考え、働けるのか。従業員と寄り添いながら築いた「見てあげることは最高の教育」。独自の評価制度とフィードバックの仕組みはビジネスモデル特許となりました。気がつけば、主体性を持った社員が「小さな経営者」として育ち、駅ビルやディベロッパー様から狭小スペースへの出店要請を受けるまでになりました。2027年には生鮮惣菜プロセスセンターの稼働を予定しており、都心23区内狭小スペースへの出店を展望しております。 
 今後も競争が緩むことはないでしょう。時に利益成長が出来ずとも、「社員の物心両面の幸福実現を目指し、小さな経営者が自然と育つ場でありたい」の実現を目指して参ります。経営品質向上活動に終わりはありません。志を同じくする皆様と私たちの経験を分かち合い、共に高め合えることを願ってやみません。