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町田市南圏域を拠点とする都市型社会福祉法人であり、「困ったときは合掌苑」と言われるほど、地域の駆け込み寺的存在として高い信頼を得ている。「関わる全ての人を幸せにする」、「新しい公共の中心として地域に貢献する」というミッションを掲げ、理念追求(ロマン)と利益追求(そろばん)を組織運営の両輪とする経営哲学を実践している。これにより、高品質なサービス提供と持続可能な組織運営を両立させ、地域に根差した介護・福祉活動を幅広く展開している。福祉業界における価値創造と持続可能な経営のモデル組織といえる。
同法人の根幹には、創業期から受け継がれてきた基本理念「人は尊厳を持ち権利として生きる」がある。理事長による毎月の誕生日研修では、理念や創業の想いを職員と共有。また、職員は直属上司との毎月の面談で理念にもとづく日々の行動を振り返ることで、主体的な実践と成長につなげている。こうした一貫した仕組みが、理念に根ざした高品質なサービス提供を支える基盤となっている。
介護サービスにおいては、利用者本位の個別ケアを基本としている。利用者の「生きる意欲」の向上や「夢」の実現を重視し、残存機能の維持・拡大を通じて利用者の挑戦意欲を引き出している。標準化が難しい介護業界にあっても、先行事例を参考にしつつ独自の工夫を加えることで高品質なケアを実現。その取り組みの一例として、座位保持が困難だった利用者がリハビリを通じて歩行やトイレ動作を自立して行えるようになったケースや、特別養護老人ホームで機械浴を全廃し、個別浴へ転換したケースなどが挙げられる。こうした取り組みの結果、要介護度改善率は2022年度に16.3%と、市内他施設平均の約4倍に達した。以降も15~16%の水準を維持し、利用者の生きる意欲の向上に加えて、職員の業務負荷軽減や労働時間短縮にも寄与している。利用者の生きる意欲が高まる姿は職員のモチベーション向上にもつながり、その相乗効果として更なるサービスの質向上をもたらしている。
また、人生の歩みや想い出をまとめた「ライフストーリーブック」の作成や、多職種チームによる観察を通じて認知症の利用者の心の願いを汲み取る取り組みも進めている。かつて家族とロマンスカーで江の島を訪れた楽しい思い出を再現することで利用者の笑顔を取り戻すなど、一人ひとりの価値観に寄り添う個別ケアを実践している。
社会福祉法人の約3割が赤字とされ、「ロマン」だけでは組織を持続的に運営できないという現実がある中、同法人は、高品質なサービス提供を維持するには人材投資を支える財務基盤が不可欠として、「ロマン」と並行して「そろばん」を重視し、組織運営の両輪としている。
その中心的な取り組みが「アメーバ経営」による全員参加経営であり、導入当初こそ職員にやらされ感があったものの、10年の歳月を経た現在では法人独自のアレンジが加えられ、現場の改善活動として定着。職員一人ひとりの経営者意識を育み、現場で自律的に経営判断を行う仕組みとしても機能している。同法人では、部門ごとの独立採算に加え、時間当たり付加価値である「時間当たり採算({売上-経費}÷労働時間)」を重視。①売上最大、②経費最小、③労働時間最短、の三方向から改善に取り組んでいる。これらの改善活動においては、ケアの質を決して落とさず、むしろ向上させることを原則としている。
①売上最大に向けて、現場の提案を起点としたホスピス事業の開始、介護保険加算の取得に向けた自発的なアプローチ、空室が発生した際のショートステイ受入体制の整備などに取り組んでいる。
②経費最小化に向けて、「おむつ在庫の見直し」などに代表される在庫管理の改善を進めている。
③労働時間最短化に向けて、各アメーバ部門において総労働時間管理を徹底し、利用者と直接向き合う「客前時間(約7割)」と事務作業などの「バックヤード時間(約3割)」を区分。IT活用による事務効率化によってバックヤード時間を削減し、客前時間の増加を図っている。さらに、サービス残業の撲滅に向けた仕組みづくりにも取り組んでいる。
こうした取り組みの結果、業務負荷軽減や労働時間短縮が進み、時間当たり採算は業界平均を15%以上(推計)も上回る水準となっている。
同法人は、最良のサービス提供のためにES(職員満足)向上によるCS(利用者満足)向上を追求し、職員がいきいきと働ける職場づくりを積極的に推進してきた。「25大雇用」と称する、障がい者や育児中、シングルペアレントなど、働きづらさを抱える多様な人材が活躍できる環境整備に取り組んでいる。職員寮や託児室の設置、夜勤専従制度やリフレッシュ休暇制度(年間8日)、定年制度の撤廃、シングルペアレント支援など、ライフステージに応じた幅広い制度を整備。また、業務標準化や業務切り出しによる細分化、短時間勤務制度などの施策も含めて、職員の柔軟な働き方を可能にしている。
資格取得支援も充実しており、介護福祉士資格保有者は全職員の4割に達している。職員一人当たりの研修費も業界平均を大きく上回り、専門性向上を後押ししている。外国人職員には日本人と同等の給与体系を適用し、日本語レベルに応じて理念教育を段階的に実施。また、委員会の委員長やチームリーダー、アメーバリーダーなどの経験を通じ、将来のマネジメント層を育成する仕組みも整備している。
こうした職場環境の整備に加え、アメーバ経営による業務負荷軽減や労働時間短縮効果も相まって、離職率は9.4%と業界平均(13.1%)を大きく下回る水準を実現。正職員、パート職員いずれも平均勤続年数は10年を超え、安定的な人材確保に寄与しているほか、アルムナイ採用も増加。熟練職員が多く在籍することでサービスの質向上にもつながっている。
同法人は、「合掌苑に関わる全ての人を幸せにする」「社会福祉法人として社会的責任を果たし、新しい公共の中心として地域に貢献する」というミッションのもと、行政や地域からの要請に応えている。高齢者支援センターと障がい者支援センターの一体運営や育児支援事業の受託など、複合的な支援を幅広く展開している。また、法人内に地域福祉支援事務局を設置し、積立金を活用してユニバーサル就労、生活困窮者支援、地域活動団体の支援など、地域ニーズに即した取り組みを自主的に行っている。
多くの社会福祉法人が公的制度や財源に依存する中、同法人は制度化以前から地域の実情に応じたサービス提供を継続してきた。その結果、公的財源への依存度が低く、自己収益比率は96.6%、純資産比率も80.2%に達するなど、財務面においても安定した基盤を構築している。
さらに、家事代行サービス会社との提携による食事お届けサービスの実施や、自宅に閉じこもりがちな認知症の人がカフェでお茶を楽しむ機会をつくる取り組みへの協力など、異業種との連携による地域課題解決にも積極的に取り組んでいる。
| 業種 | 総合福祉事業 |
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| 設立 | 1966年*創業1953年 |
| 代表者 | 森 一成 |
| 所在地 | 東京都町田市 |
| 売上高 | 2,769百万円 |
| 従業員 | 475名 |
(社福)合掌苑は、創業者の市原秀扇が昭和25年に東京大空襲の被災者を中野区のお寺でお世話したことにルーツを持ちます。仏教の慈悲の精神に基づき「人は尊厳を持ち権利として生きる」を創業の理念に掲げ、高齢者・障がい者の権利と尊厳を守り続けてきました。昭和35年に町田で老人ホーム事業を開始して以来、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、訪問介護事業など現在31事業を展開。「合掌苑に関わる全ての人を幸せにする」ことを使命とし、地元密着を柱に創業65年を迎えました。
当法人では「お客様の幸せには働く職員の幸せが不可欠」という考えのもと、働き方改革を推進。ダイバーシティ&インクルージョンを重視し「25大雇用」を採用しています。サービス残業撲滅や長期連続休暇の推奨、アメーバ経営による全員参加経営を実践。職員が経営を「自分事」として捉えられる環境を構築、高い付加価値の実現を目指すことで、地元で持続可能な福祉社会を支えています。
当法人は「ロマンとそろばん」(想いの実現と堅実な事業運営)を両立させる理念経営のもと、トップダウンからボトムアップへの組織変革と全員参加経営を推進しています。理事長の経営品質との出会いから変革が始まりました。創業者の理念が根づく土壌に「ありたい姿と現状のギャップに取り組む」活動が定着しました。経営幹部によるセルフアセッサーの取得、共通言語化や異業種へのベンチマーキング、外部研修参加を通じて組織として職員の成長を支援しました。同時に、ICTの活用、労働時間の短縮(サービス残業撲滅)、有給休暇の取得促進や長期休暇の取得推奨、定年制の廃止、フレックスタイム制導入など職員が安心して働ける環境を徹底的に整備、さらに「25大雇用」を掲げ、ダイバーシティ&インクルージョンを強化している点が大きな特徴です。2015年からはアメーバ経営を導入し、全員参加経営を実践してきました。これにより一人ひとりが経営者意識を持ち、「ロマンとそろばん」を回す有効な手法が確立されました。また、地元に根差した社会福祉法人として、地域の自助団体へ地域福祉支援積立金の助成など独自な支援をおこない地域共生の実現に取り組んでいます。
継続的な取り組みの結果、2018年には経営革新推進賞と日本でいちばん大切にしたい会社大賞を受賞。その後、経営品質の取り組みはより多くの職員を巻き込み深化し、理念と多様性を尊重する経営を通じて、全員での組織変革と持続可能な体制づくりをさらに進めています。