本年度受賞企業

2021年度日本経営品質賞大企業部門受賞

東京都世田谷区 電気通信事業

楽天コミュニケーションズ株式会社

https://comm.rakuten.co.jp/

代表者:代表取締役会長CEO 平井 康文 氏

  • 【組織の一体感醸成と顧客志向への変革】
  • 【顧客にとって真に必要な機能を低コストで提供】
  • 【コア技術と先進技術の組み合わせによる価値創造】
  • 【スピーディーな開発プロセスを支える迅速な意思決定】
  • 【失敗を学習機会と捉え、チャレンジを奨励する組織風土】
表彰理由

■IP電話のパイオニア企業「フュージョン・コミュニケーションズ(2000年創業)」を前身とし、現在は楽天グループの一員(楽天モバイルの100%子会
社)として、法人市場向けICTサービスを提供。
■2007年に楽天グループ傘下に入り、大幅なコスト削減により創業以来の赤字を解消するも、売上はピーク時から大幅減少し、従業員のモチベーション
も低下していた。2015年に平井康文(現・楽天グループ株式会社 副社長執行役員)が代表取締役会長に着任。ビジョン策定や経営品質向上活動を開始
し、組織変革に着手した。
■長年培ってきた通信インフラと先進ITソリューションの組み合わせを強みとし、顧客ニーズにマッチした新サービスを積極的に開発している。コロナ
禍で在宅勤務化が進む中、他社に先駆けて開発した「在宅コンタクトセンター パッケージ※」は、導入し易さや利便性で差別化に成功している。
※在宅でのコンタクトセンター業務を実現できるクラウド型コンタクトセンターシステムと通信サービスをあわせたパッケージ。
■2016年度以降、売上は5年連続二桁成長、営業利益率15%以上、極めて高い付加価値労働生産性を実現。

【組織の一体感醸成と顧客志向への変革】

 前身のフュージョン・コミュニケーションズは、全国一律料金で音声通話が可能なIP電話事業を他社に先駆けてスタートしたが、同業他社との競争激化で業績は低迷し、2007年に楽天グループの傘下に入る。様々な経営再建策により翌年黒字化したものの、売上はピーク時から大幅減少し、コスト削減や経営方針の度重なる変更によって社員のモチベーションも低下していた。2015年に平井康文(現・楽天グループ株式会社 副社長執行役員)が代表取締役会長として着任し、同年、本社を楽天クリムゾンハウス(東京都世田谷区)に移転、社名を楽天コミュニケーションズに変更した。経営幹部が議論を重ね、「デジタル社会の価値創造イネーブラーを目指す」というビジョンを掲げ、翌2016年より、組織の一体感およびビジョン浸透を促進するために、独自の経営品質向上プログラム「Quality Journey」の活動をスタート。「コスト優先」から「価値あるサービス提供優先」への方針転換と、「社員は人財」というコンセプトのもと、積極的な人財投資を行い、サービスオペレーションやシステム、ネットワーク安定化による顧客満足度向上に努めてきた。こうした活動を通じて、技術者気質が強かった組織に「顧客視点」の考え方が浸透し、組織の一体感と顧客志向が醸成されてきた。

【顧客にとって真に必要な機能を低コストで提供】

 同社は、楽天グループ各社への先行導入や検証を通じて、有効性とユーザー利便性を向上させることで、カスタマイズが不要なソリューション開発に努めており、自社における業務プロセス改革の効果もあわせて、顧客にとって真に必要な機能を低コストで提供することを実現している。
 顧客と接する社員と新規事業の企画担当者が日常的に行うコミュニケーションでは、「顧客の先にある顧客」を含めた「利用シーン」を常に意識し、顧客の本質的なニーズをつかんだ上で、「真に必要な機能」の開発を行っており、個別カスタマイズではなく、基本機能の充実・追加という形で顧客の期待やニーズに応えている。同社では、顧客から困りごとの相談を受けることも多いが、フィットする自社サービスがない場合でも、他社サービスの紹介も含めて顧客の立場に立った情報提供・アドバイスを行うことで、顧客からの信頼が高まり、一層の関係性強化につながっている。
 また、重要顧客やパートナーの幹部が参加する会議「QBR(Quarterly Business Review)」を四半期毎に開催し、お互いの期待や課題に協力して取り組むことで、重要顧客・パートナーとの関係性を深めるとともに、連携強化による顧客価値向上につながっている。

【コア技術と先進技術の組み合わせによる価値創造】

 同社は、売上の90%以上を、毎月使用料を徴収するサブスクリプション・サービスが占め、その安定的な収益基盤をもとに、長年培ってきたコア技術と、先進技術を組み合わせた新サービス開発に経営資源を積極的に投入している。先進技術には、楽天グループが保有するものの他、海外企業が提供する技術やソリューションも含まれる。楽天グループのグローバル・ネットワークの活用や独自のリサーチによって、先進技術やソリューションを持つ海外ビジネスパートナーとの強固な連携関係を構築し、迅速な開発が可能な体制を整えている。
 現在は、IP電話やBYOD(社員の私用端末のビジネス活用)関連サービスや、コンタクトセンター・ソリューションをはじめとするクラウド関連サービスの領域に注力しつつ、新規サービス開発を積極的に行っている。新規サービスの開発にあたっては、楽天グループの保有技術やグローバル・ネットワークを活用できる範囲を見定めた上で、競争優位性を確保してトップ・シェアを目指せる事業領域を絞り込んでいる。
 コンタクトセンター・ソリューションの「楽天コネクト Storm」は、幅広いコミュニケーションに対応できるオムニチャネル対応や、規模に応じた柔軟な拡張性、他システムとの連携性に優れ、第三者機関により表彰された。コロナ禍によってコンタクトセンターの在宅化を検討する企業が増える中、「在宅コンタクトセンター パッケージ」の提供を他社に先駆けて開始。導入しやすさや利便性等で他社との差別化に成功している。

【スピーディーな開発プロセスを支える迅速な意思決定】

 開発プロセスでは、顧客にとって価値あるサービスを、執行役員、営業部門、技術部門、マーケティング部門が一体となって開発する標準プロセスを整備し、顧客本位の品質の担保とスピーディーな開発の両立を可能としている。また、コアとなるサービス開発を内製化することで、ノウハウの蓄積も進んでいる。
 経営会議をはじめとする社内の重要会議では、結論を先送りにせず、アクションプランをその場で決定することが徹底されている。さらに日頃より、1on1(上司と部下による1対1での対話)やスキップ1on1(一つ上の階層の上司との1on1)、ラウンド・テーブル(任意のメンバーによって随時実施されるミーティング)などの様々な機会を通じて、階層を越えた密なコミュニケーションがとられており、経営幹部と社員双方による対話も活発に行われている。また、本社オフィスはワンフロアでフリーアドレスのレイアウトを採用し、経営トップが随時フロア内を巡回して、気軽に社員に声かけを行うなど、オープンでフラットな社風を構築している。こうしたコミュニケーションの積み重ねによって、経営層と現場の社員の判断の軸が一致していることで、迅速な意思決定や事業運営を可能としている。

【失敗を学習機会と捉え、チャレンジを奨励する組織風土】

 新規事業やサービス開発には失敗がつきものだが、同社では、失敗を学習機会と捉え、失敗を通じた学習力を高めることで成長する組織を目指しており、過去の失敗経験も、現在の事業戦略に有効に生かされている。社員は失敗を恐れることなく、業界の常識に縛られない提案を積極的に行っている。社員は、自身の提案が採用され、必要なサポートを上司や同僚、経営幹部から受けられることを自ら経験することで、仕事のモチベーションが高まり、社員と組織の良好な関係性も強固なものとなっている。
 各部門が、組織ビジョンと事業戦略を実現するために自らできることを自主的に考えることを重視して2021年度に導入したOKR(Objectives and Key Results)は、四半期単位で前期の結果を踏まえ、当期の目標を設定する運用を行っているが、経営会議の場で、常に目標設定と達成に対するロードマップを検討している。標準達成率を70%に設定することで、野心的な目標への挑戦を促進している。

沿革・事業内容
業種 電気通信事業
設立 2000年
代表者 平井 康文
所在地 東京都世田谷区
売上高
従業員 245名(2021年11月1日時点)

 当社は2000年IP電話のパイオニアとして創業し、2007年に楽天グループの一員となりました。以来、コミュニケーションとインターネットの融合と加速を目指すコーポレート・ビジョン『The New Value Enabler towards our Digital Society』のもと、楽天グループが社内で利用する通信および情報技術・ノウハウを生かしてお客様のビジネスを支援してまいりました。
 通信業界はいま、AIやIoT技術の発達とともに大きな変動の中にあります。当社は、提供するIP電話、コンタクトセンター、クラウド、モバイルなどの通信サービスを中心に、5G/IoT時代における新たな価値創造へのチャレンジを続けることでお客様のデジタル・トランスフォーメーションを引き続きサポートしてまいります。

経営品質向上活動への取り組み

 当社の前身であるフュージョン・コミュニケーションズは、2007年に楽天グループ傘下に入る前は事業黒字化の目途が立っておらず、楽天グループ傘下に入った後は財務体質改善を最優先する経営方針で黒字化を実現した一方、売上は減少し、理念・目標の共有や会社としての一体感が薄く、社員のモチベーションも高い水準とは言えませんでした。 
 2015年に着任した会長の平井は、当社が目指すべき独自性として“社徳”を掲げ、“お客様の魂を揺さぶる”活動を実践する“人財共育”を全社員に強く訴えかけました。2016年からは社員の一体化促進と経営ビジョンの浸透を図るため、独自の経営品質向上プログラム「Quality Journey」を開始しました。50名近い管理職が1年半にわたり参画した第1世代から、全社を挙げて取り組む現在の第5世代まで、経営品質の事例学習やセルフアセスメントに取り組み、2018年には「経営デザイン認証ランクアップ認証」を頂きました。
 過去5年間の当社の歩みと進化を問うために今年度の日本経営品質賞に応募し、同賞を賜ったことで、これまでの歩みに対する確信と大きな勇気をいただきました。引き続き、当社の強みをさらに磨きながらより高みを目指して努力を続けてまいります。