本年度受賞企業

2021年度日本経営品質賞中小企業部門受賞

東京都新宿区 ガソリンスタンド事業

ヤマヒロ株式会社

https://yamahiro.info/

代表者:代表取締役社長 山口 寛士 氏

  • 【訴求サービス絞り込みによる専門性向上と、ワーキンググループによる改善活動】
  • 【継続取引を目指してセルフ式GSでも店頭接客を重視】
  • 【レンタカーと中古車販売の組み合わせによる高収益ビジネスモデル】
  • 【不採算店の引き受けや開発案件の成功実績を積み重ねる】
  • 【「東京の街の暮らしをスマートにアップグレードする」将来像にむけて】
表彰理由

■出光グループのトップディーラーとして、東京都内を中心にガソリンスタンド35店舗を運営。(ガソリン販売量は、都内の出光グループの中で第1位)
■車検、コーティング、レンタカーなどの「油外サービス」は、各店舗で訴求サービスを絞り込むことで専門スキルを高めた結果、車検台数、コーティ
ング台数、レンタカー貸渡台数の実績は、首都圏の出光グループの中で第1位。
■セルフサービス型店舗(全店舗中33店舗)をいち早く導入したが、継続取引を重視するため、スタッフ数は減らさず、独自に構築した車両情報管理シス
テムと車番認証システムを連動させることで、顧客に寄り添ったタイムリーな接客を可能にしている。
■2035年のガソリン車販売終了を視野に、サービス収益のさらなる向上とともに、地域生活拠点として「東京の街の暮らしをスマートにアップグレード
する」という新たなビジョンを掲げて積極的に事業を展開している。

【訴求サービス絞り込みによる専門性向上と、ワーキンググループによる改善活動】

 規制緩和によってガソリンスタンド(以下GS)の競争が激化し、多くのGSでは、洗車、車検、整備をはじめとする「油外サービス」を積極的に提供しているが、顧客より店の都合を優先した「押し売り」的な販売は、顧客に敬遠されるだけでなく、業界内外の競争によって、近年は収益性も伸び悩んでいる。
 以前の同社も、各店舗で様々なサービスを取り扱い、声掛けによるキャンペーン商品の販促を実施していたが、顧客のニーズとかけ離れた取り組みを続けることで、店長をはじめとする現場の従業員は疲弊していた。そこで、同社では、一方的で無用なセールスを廃止し、店舗の立地と設備環境に合わせてサービスを特化するため、2015年から事業部制に移行した(第1事業部は点検・整備と車販・保険、第3事業部は洗車・コーティングと鈑金・リペア、第4事業部はレンタカーとドライブスルー洗車など)。店舗毎に訴求するサービスを絞りこむことで、社員は狭い範囲を深く学んで専門性が高まり、蓄積された知識・技能を事業部内で共有することで、事業部全体の成長につながった。近年同業他社のサービス収益が減少傾向にある中、同社は、2016年度以降サービス収益が増加し続け、現在は2016年度比で1.5倍となっている。
 同社では、事業部による縦のライン、スタッフ部門による横のラインの他、社員主体の部門横断型の6つのワーキンググループ(WG)を設置し、現場目線で全体最適の改善活動も推進している。WG活動を通じて、顧客の声に基づく改善提案件数の増加や、社員満足度調査結果を踏まえた働きやすい職場環境づくり、社員・アルバイトスタッフの能力開発等に貢献しており、会社の戦略策定にも欠かせないものとなっている。

【継続取引を目指してセルフ式GSでも店頭接客を重視】

 同社は、1998年の解禁にあわせて、セルフ式GSをいち早く展開した(現在35店舗中33店舗がセルフ式GS)。通常のセルフ式GSではスタッフ数を減らしているが、顧客との継続取引を目指す同社では、顧客接点を形成する場として店頭接客を重視しており、各店舗に社員数名及びクルーと呼ばれるアルバイトスタッフを配置している。加えて、石油元売りが長年にわたって構築できなかった車両情報管理システム(顧客データベース)を、市販のアプリケーションやシステムを活用して、独自に構築している。同システムには、約5万人のデータが蓄積されており、顧客属性や車両情報だけでなく、前回入庫時の提案内容やヒヤリング内容、顧客の気にしていることなど、様々な情報が詳細に記録されているため、次回入庫時に、過去履歴や顧客の意向へ配慮した接客が可能となっている。また、車番認証システムと連動させることで、入庫車のナンバープレートを認識し、瞬時に履歴や次回来店時のテーマなどの情報を表示することができるようにした。これにより、スタッフは、自分達の都合ではなく、顧客のカーライフに寄り添った提案ができるようになった。次の車検まで顧客とコンタクトをとらない整備工場やGSが多い中、同社では、顧客と継続的に接点を保ち、関係性と信頼性を高めている。

【レンタカーと中古車販売の組み合わせによる高収益ビジネスモデル】

2008年にレンタカー事業を開始し、レンタカーと中古車販売を組み合わせた高収益のビジネスモデルを確立している。同社がFC契約している格安レンタカー業界では、古い中古車を限界近くまで稼働させた後、廃車または格安で売却することが一般的だが、同社では、カーナビやドライブレコーダーを装備した新車を購入し、格安レンタカーとして提供することで顧客満足度を高めている。
 そして、一定の走行距離を超えた車両は、買い替えを検討している自社の顧客へ直接販売している。車検・点検などの顧客接点を通じて得られた顧客情報(高年式で比較的安価な中古車を希望する顧客)を車両情報管理システムで管理し、顧客のニーズにマッチした車両が出てくるタイミングで、タイムリーに買い替えを提案できることから、高い在庫回転率(平均10日程度)での成約につながっている。

【不採算店の引き受けや開発案件の成功実績を積み重ねる】

 35店舗のGSのうち、29店舗は石油元売りからの要請を受けて統合、開発した店舗である。クレジットカードやポイントカードを活用した顧客固定化施策(石油元売りの推奨施策)においても、他社を圧倒するスピードで達成する同社は、石油元売りから不採算店の立て直しや、開発案件を任されることが多く、成功実績を積み重ねることで、信頼もさらに高まっている。2021年春にオープンした立川通りサービス・ステーションは、出光興産の新ブランド「アポロステーション」の全国第1号店として選ばれたもので、業界内外から大きな注目を集めた。不採算店を引き受ける際には、従業員も受け入れ、同社の掲げる顧客本位の経営理念と価値観を学ばせ、ビジネスマンとして再教育している。目標設定についても、達成することが目的ではなく、大きな目標に向かって努力するプロセスを重視している。アルバイトスタッフにも資格取得を奨励しており、価値観共有のための研修受講も義務づけている(2回目以降の受講から昇給対象)。アルバイトスタッフもスキルマップの対象となっており、主力クルーとして認められることにやりがいを感じている。なお、同社の離職率は9.5%で、生活関連サービス業の平均(24%)を大幅に下回っており、勤続10年を超える社員の退職は、過去5年以上にわたって毎年1~2名にとどまっている。

【「東京の街の暮らしをスマートにアップグレードする」将来像にむけて】

 2020年、新たな将来像として、「東京の街の暮らしをスマートにアップグレードする」をビジョンに掲げた。脱炭素社会や自動運転技術など、自動車を取り巻く環境は大きな変革期にある。政府は2035年にガソリン車販売を終了する方針を掲げたが、同社では、完全EV(電気自動車)化が実現するまでは、ガソリンは引き続き生活を支える必需品であることから、ガソリン販売事業の業務効率性を高めつつ、東京経済圏における安定供給に努める方針をとっている。EVやFCV(燃料電池自動車)普及後も、自動車を「安全・安心」「快適」「リーズナブル」に利用するためのサービスは引き続き必要とされると考えており、現在、6:4の燃料油収益・サービス収益比率を逆転させることを目指して、事業部の専門性をさらに高めつつ、Jeepの正規ディーラーとしての輸入車販売店のオープンをはじめ、保険代理店やコンビニエンスストアなど、地域の生活拠点を目指した事業展開を積極的に進めている。

沿革・事業内容
業種 ガソリンスタンド事業
設立 1952年
代表者 山口 寛士
所在地 東京都新宿区
売上高 22,269百万円(2020年度)
従業員 405名(社員145名)

 ヤマヒロは、東京都を中心に自動車関連サービスを提供する地域密着型企業です。安定したエネルギー供給をはじめとし、車検・整備・保険・車両売買・鈑金・コーティング・レンタカー事業を営んでいます。出光昭和シェルのガソリンスタンドを35店舗、車検の速太郎(指定整備工場)4店舗、ニコニコレンタカー保有車両400台、Jeepディーラー1店舗等を展開しています。

経営品質向上活動への取り組み

 2014年から経営品質向上活動に取り組み、この間4度の申請を通じて評価フィードバックと社内での振り返りによる改善を繰り返し行うことで、組織の変革が大きく進みました。また、その間、多くのビジネスパートナーや周囲のみなさまからも学びをいただいたことに心より感謝申し上げます。
 歴史を辿り先代が歩んできた道を振り返ると、過去の変革の時代において、当時では先んじて油小売事業を始めたことが原点と捉えています。そしてオイルショックやセルフ化などの規制緩和という荒波の中、組織のあるべき姿を示し、人材育成による組織力強化を実現した結果、成長を続けてきました。
 そして現在、自動車というモビリティはまた新たな変革の時代を迎えています。予見し難い未来の中で、東京の自動車関連サービスで強い基盤をもつ当社こそが先んじて新しいことに挑戦するべきであり、その精神こそが創業者から受け継ぐ大切なものだと考えています。その挑戦を通じて東京の暮らしが更に快適になるよう貢献すべく「東京経済圏の街の暮らしをスマートにアップグレードする」を新たなビジョンに掲げています。
 従業員一同、理念とビジョンを共有し、これからも求められる存在となるよう成長してまいります。